サッカーを、言語化する。
 世の中には、サッカーを表現したものがたくさん存在しているが、細かなプレー概念や戦術といったものを言葉にすることは、ものすごくハードルが高い作業である。何気なく普段読み聞きされることも、表現する側からすればどこまでを的確に伝えられているのか。今、これを書きながらも自問自答する。

 幼少期から大切な意識として、「恐れずにチャレンジする姿勢」や「トライする精神」などと書かれているものをよく目にする。サッカーにおいても、子供の頃から消極的なプレーではなく、失敗を怖がらずに積極的に仕掛けることが奨励される傾向がある。
 ただ、指導者を含め、なぜトライ、チャレンジすることが大切なのか、それをきちんと言語化できているだろうか。猪突猛進、ドリブルで仕掛けていく。常にスルーパスを狙う。果敢にシュートを打っていく。どれも前向きな姿勢だが、奨励するだけしながらも、なぜその意識が大事なのか。わかりやすく説明されているのか。突き詰めて考えると、壁にぶつかる。

「確かに、言語化することは本当に難しいと思います」

 ここまで、本コラムでもさまざまな言葉を紡いできた小林祐希も、この意見に同意する。彼もその困難さを常に感じながら言葉を発してきたという。

 そんな小林が、面白い例えを出してきた。

「少し前に、ある人とヴェルディ(東京ヴェルディ)の先輩の武田修宏さんの話になった。あの人、現役時代にものすごく点を取っていたじゃないですか。ゴール前の位置で、『え?そこにいるの!?』みたいなポジショニングを取ってゴールを決める。ある時、子どもたちに『どうしてそんなにたくさんゴールを決めることができるんですか?』と聞かれると、武田さんは『匂いがするんだよ』と言ったみたいで。子供からしたら、『何?匂いって?』となりますよね。でも僕らにはその意味がわかるじゃないですか。いわゆる、ゴールの嗅覚というやつです。
 でも、これってどう言語化して伝えればいいのか。それはおそらく、何かここにボールが来そうな感じがする、そんな直感なんですよ。イコール、感覚。理屈じゃないから、誰もが言葉で説明することが難しいと考えるんだと思うんです」

|小林が言葉にした、
トライすることの大切さ。
それは、至極単純な答えだった

 一般的に、理詰めで考えられることは言葉にしやすい。一方、小林の言う感覚的な物事はどうしても言語で説得することが難しい。よくスポーツ選手でも、『理論派』や『感覚派』などと分類されるが、前者はプレーを理路整然と語れるのに対して、後者は自らのプレーを人には伝えにくいものである。
 前回のコラムで、小林は「サッカーは、極論は感じる競技」と話していた。言ってみれば、彼も『感覚派』に分けられるのかもしれない。
 ただ、小林はこの感覚的なものを、しっかり言葉にしようとする。
 なぜ、チャレンジする、トライするプレーが大切なのか。その答えを、小林はシンプルにこう述べた。

「自分に、嘘をつかないこと。こんなに簡単な言語化は、ないでしょ」

 言葉にして説得しようとすると、どうしても理論で話そうとしがちだ。ただ、言語化の引き出しは、思いのほか広いのかもしれない。理詰めではなく、“意識”を表現する。
 嘘をつかない。子どもたちにとっては大切な“意識”だ。

「サッカーで説明すると、例えばパスをする時、ドリブルをする時、最初に自分の中でそこでパスを通せる、ドリブルで相手を抜けると思って、やるわけじゃないですか。初めからミスすると思ってプレーするなんて人はない。最初にできると思って、とにかくやる。積極的に仕掛けるにしても、シュートを打つにしても。
 そこでミスをしたとしても、自分に嘘をついていないからいいんですよ。例えば心の中にいるもうひとりの自分が『できないなら後ろにパスを出せよ』とか言ってきたり、周りの指導者や選手に『なんでミスするんだよ』と言われて、次から消極的になる。それだと、最初の自分に嘘をついていることになる。それって、やっぱりおかしいことなんですよ。
 なぜ、トライすること、チャレンジすることが大事か。それは、自分に嘘をつかないようにするため。子供の頃から意識すれば、めちゃくちゃ強気な選手になれますよ」

 目からウロコのような話かもしれない。よく保護者も子供に対して「正直でいること」、「嘘をつかないこと」など、普段の会話で話していることだろう。
 それは、サッカーでも同じこと。もちろん、トライしたプレーが失敗になっても、目くじらを立ててミスを指摘しない態度は周囲の人間にとって大切だ。ただそれ以上に、子どもが思い切ってチャレンジする時に「自分に嘘をつかずに、思いのままプレーすればいい」と背中を押してあげることで、きっとその子の気持ちは軽くなる。そして、挑戦することの大切さを、自らどんどん理解していけるようになる。
「嘘をつかないこと」。こんなにシンプルで、わかりやすくサッカーを言語化した小林。
誰よりも彼自身が、大人になった今でも真っ直ぐに挑戦していることの、証しだった。

text by 西川結城(Yuki Nishikawa) 大学在学中より横浜FCの専属ライターとして活動を開始。2007年よりサッカー専門新聞『EL GOLAZO』の記者として数多くのJリーグチームと日本代表を担当。海外クラブで活躍する本田圭佑や吉田麻也も若い時代から取材。現在はサッカー、スポーツ誌各媒体にも寄稿している。