|味方にも敵にも気を配る。これが、ピッチ上で優位に立つ方法
 そう言うと、小林が実際にピッチ上でのプレーを具体的に出しながら続けた。
「僕は常に、チームメートや対戦相手の顔色を見ながらプレーしているんですよ。例えば味方のサイドアタッカーが何回もスプリントして疲れている状況なのに、監督はまだ彼を走らせて攻めろという指示を出している。でも、明らかに疲れていて今は走れない。そこで僕は彼を一度休ませる意味も含めて、逆サイドにボールを振って攻めていく。
 これは、相手との勝負の駆け引きを考えても有効なんですよ。最初の段階で何回かサイドを走らせる攻撃を見せておいて、向こうが警戒してきたら今度は足元でボールを回していく。しかもこれを、チームメートの息遣いとかを見ながら、しっかり使い分けていくことが大切で。監督がこうしろということをすべて聞いていても、そのあたりの微妙な感覚は一緒にピッチに立っている選手にしかわからない。この場合は、味方に“配慮”しながら、監督に“遠慮”することなく自分の判断を信じて“主張”するということになる。優れた選手は、これができていると思います」
 そして、小林は日本人こそがこの共存を高いレベルで発揮できると信じている。そこには、特に配慮の精神が大きく関わっている。
「日本の、日本人のサービスレベルの高さと通じる話だと思っています。レストランでも、お客さんが箸を落としたりコップの飲み物が空になったりすると、日本ではすぐに店員さんがやってきてサービスをする。もちろん、テーブルまでの距離が遠かったりすると、細かいところまでは目視できない。ただ『さっきお水が無くなりそうだったから、そろそろ空になっているんじゃないだろうか』と察することができているから、可能な行動なんだと思う。
 サッカーやスポーツだって一緒です。『右サイドのあいつは、ここ数分間ずっと走り続けているからきつそうだな』とか『相手の選手は明らかにここのスペースを突かれると嫌な素振りをするな』とか、そういうことを察した上で、プレーをしていけるかどうか。それはどれも、他人のことによく気を配る精神がないと行き着かない感覚です」

 子どもの頃は自分のことだけに没頭しがちになる。サッカーでも勝敗などを度外視し、まずは楽しむことが先決とも唱えられる。
 もしかしたら、ここで小林が話してきたことは幼少期の子どもが実践するには少し早い考え方かもしれない。ただ、いずれ“配慮”や“主張”といった、相反する行動の共存や葛藤に直面するであろうことを考えると、子どもたちが他者に気遣いし、自分の考えも表現できる人間性に近づくために、今の時点から保護者が寄り添っていくことは有意義である。
 何より、そのベクトルを意識した上で子どもたちを育てていくことは、彼らが自立(自律)した選手や人間へと成長していく太い道筋を描くことになっていくだろう。

text by 西川結城(Yuki Nishikawa) 大学在学中より横浜FCの専属ライターとして活動を開始。2007年よりサッカー専門新聞『EL GOLAZO』の記者として数多くのJリーグチームと日本代表を担当。海外クラブで活躍する本田圭佑や吉田麻也も若い時代から取材。現在はサッカー、スポーツ誌各媒体にも寄稿している。