番外編 ロシアW杯で日本代表選手が見せた姿――。そこに、子どもたちの成長へのヒントが隠されている。

ようやく見つけた、日本にとっての『自分たちのサッカー』 ようやく見つけた、日本にとっての『自分たちのサッカー』

 戦前の予想は、決して高くはなかった。ただ最後は、国民に感動を呼ぶ試合を見せてくれた。
 ロシアW杯を戦ったサッカー日本代表。ベスト16の舞台でベルギーに惜しくも敗れたが、大会前から取材をし続けた我々記者にとっても、彼らが見せてくれたプレーは誇らしかった。
 印象的だったのは、日本人選手が日本人監督のもとで、ようやく世界の檜舞台で『これが、日本のサッカー』と言える戦い方を実現できたことだった。
 これまでも再三叫ばれてきた、サッカースタイルの構築。強豪国には皆備わっているスタイルを、日本はなかなか見出だせずにいた。
 漠然と頭に思い浮かぶものはあった。『組織的な戦い方』や『選手が連係、連動したサッカー』など、何度も目にし、耳にしてきた言葉たちではあるが、どれも具体性には欠けていた。
 4年前のブラジルW杯では、選手たちが『自分たちのサッカー』という言葉を連呼していた。パスを繋ぎ、強気に攻めていく。試合の主導権を常に自分たちが握り、敵を押し込む狙いのもとで選手たちは戦おうとしたが、それは脆くも大会で砕け散った。日本には、直近の大会で痛恨の過去があったのである。
 今大会、西野朗監督のもと、約1ヶ月弱の準備期間ながらも日本代表が統制の取れた戦いを実現できた理由。それは、選手個々のサッカー観や個人戦術が大きく関係していた。

ゴールの影で実行していた、戦術的な働き ゴールの影で実行していた、戦術的な働き

 時間がない中、日本は戦術を構築しなければならなかった。西野監督が胸襟を開いて選手たちに意見、主張を忌憚なく求めたマネジメントも見事だったが、そこに応えた選手たちも素晴らしかった。日々のミーティングでは、当初は個々のサッカー観がぶつかりあうことも多々あったという。ただ、そこで選手たちもあくまで建設的に意見を投げあったことで、徐々に戦い方の輪郭ができあがっていく。
 それが、初戦のコロンビア戦で見られた、前線から最終ラインまでコンパクトに保たれた陣形だった。攻撃の選手たちが守備意識を高く持って、相手に向かっていくスタイルである。
 大迫勇也がゴールを挙げ、乾貴士がそれに追随し得点を重ねた。香川真司も4年前のW杯での悔恨を払拭するようなゴールとパフォーマンスを見せ、原口元気も渾身の右足シュートをねじ込んだ。攻撃陣は目に見える形で結果を出し、国民を興奮させた。
 しかし、彼らが影で実践していたのは、戦術的な守備の動きだった。
 大迫は前線からのプレスを掛ける、そのスイッチ役として献身的に相手を追った。トップ下に入った香川は、敵と敵の間に立つ絶妙なポジショニングを繰り返し、ボールへのアプローチだけでなくパスコースも限定する頭脳的な守備を披露した。
 左右両サイドにいた乾と原口も前から相手を追い込む場面と、一度引いた位置からプレスをかける場面、その使い分けが見事だった。体格では競り負けることが多い日本人。ただ選手たちは、鎖のようにつながりながら連結した守備を実践した。『組織的なサッカー』といった漠然としたイメージを、見事に具現化したのである。

守備の選手も、攻撃で貢献。攻守が一体になったプレー、それが日本らしさ 守備の選手も、攻撃で貢献。攻守が一体になったプレー、それが日本らしさ

 攻撃の選手が、守備の振る舞いで良さを出す。反対に守備の選手たちが攻撃面で果たした貢献も見逃せない。センターバックの吉田麻也は的確なフィードキックを蹴り分け、さらに鋭い縦パスを入れて攻撃の第一歩を担った。縦パスに関しては、コンビを組んだ昌子源も負けていなかった。初のW杯の舞台で、物怖じすることなく堂々とボールを前に運び、パスを出していった様は、頼もしかった。
 左右両サイドバックに入った長友佑都と酒井宏樹。彼らの攻守両面での貢献度の高さは、もはや言うに及ばずかもしれない。周囲の選手と連なって守り、攻めることはもちろんのこと、二人は個の対決でも外国の選手相手に遜色なく渡り合っていた。
 4年前の『自分たちのサッカー』も、連動して戦うスタイルではあった。ただ、その意識があまりにも攻撃に偏りすぎていた。
 ロシア大会の日本代表の戦い。それは、守備面での高い連動性が、ボールを奪った後の良い攻撃につながっていた。攻守両面で連なる。そのパフォーマンスを支えていたのが、何より選手個々が自分たちの判断で選択、決断して見せた戦術的な動きだった。
 今大会の日本代表のサッカーこそが、初めて胸を張って『自分たちのサッカー』と言えるものだった。

「完成された選手だから実行できる」では、遅い。未来を担うべく、幼少期から「日本人の強み=抜きん出た柔軟性」の意識を持ちたい 「完成された選手だから実行できる」では、遅い。未来を担うべく、幼少期から「日本人の強み=抜きん出た柔軟性」の意識を持ちたい

 欧州で活躍する選手が多い今の日本代表。個々のサッカー観や個人戦術は、本場に渡ってから養われていったところはある。香川が昔から守備戦術に長けた選手だったかと言えば、そうではないだろう。また柴崎は、鹿島アントラーズからスペインに渡り、この1年間で戦術的にも肉体的にもタフなプレーヤーになった。
 今大会の代表チーム、選手たちが見せてくれた、今後の日本サッカーの方向性。これからもW杯や各世代の国際大会で発揮していくためには、欧州に移籍した選手が手にする成長だけに頼っているようではいけない。
 日々、日本でトレーニングを積む選手や指導者、さらに言えば若年世代から『日本人が世界と渡り合うために必要な要素』を強く意識して、サッカーと向き合っていかなくてはならない。
 今プロジェクトに当てはめていくと、幼少期の子どもに向けたアプローチとなる。足が速い、ドリブルが得意、シュートがうまいなど、その子の一芸を伸ばしていくことは当然必要である。ただ、日本でサッカーを学び、成長し、そして日本を代表してプレーするようになるまでの成長を考えれば、やはり今回の代表選手たちが見せてくれた、『さまざまな局面でさまざまなプレーができる柔軟性』を武器にできる選手を輩出できれば面白い。そして、選手としてその柔らかな思考や発想を発達させていくためには、幼少時代からその場、その場での自主的なジャッジを繰り返していける意識と環境はとても大切になるだろう。
 例えば攻撃が大好きな反面、「守備をやりたくない」と言う子どもをよく見かける。またはその逆もあるかもしれないが、そこでまずはそばにいる大人がどんな指針を持って助言することが効果的か。監督やコーチであれば、より技術的・戦術的な観点から子どもたちの理解を深めていこうとする。保護者であれば、その子の性格や精神面を最も理解する立場として、子どもが今置かれている状況に対して高いモチベーションを持てるように寄り添っていく。そして、アドバイスや指示を聞いた子どもも、助言だけをすべて頼りにすることなく、いかに集団の中でも個性をしっかり発揮できる自分を作っていけるか。
 これらの取り組みの促進は、保護者の観点からすれば、次回から記していく『コントローラー』と『イノベーター』の役割に重なっていく。与えられた環境の中で、組織の役割と個性の発揮の両立が可能かどうか、その意見交換を子どもと行っていく役割が『コントローラー』。また、子どもに指示や指針を示した中で、一方で多くの引き出しがあることも理解させる役割が『イノベーター』。
 いずれもその先に見据えるのは、組織を鑑みながらも個人の判断や決断もできる、そんな柔軟性に富んだ選手の育成である。
 W杯の熱は冷めた中、ロシアの地で日本代表の選手たちが見せてくれた頼もしい様を、今あらためて思い返してみる。するとそれは、今現在日本サッカーの枠組みの中で生きている子どもたちにとっても遠い未来の理想像ではなく、幼少期からでも十分に意識し、目指していける姿だった。

profile

今野 敏晃(Toshiaki Nishikawa)

1975年7月13日、東京生まれ。
高校卒業後イタリアへ渡り、ファッション業界にて対日セールスマネジメント・マーケティングに従事。独立・起業後は、スポーツコンサルタントとして、マンチェスターユナイテッドの東日本大地震復興支援プロジェクトなど、CSR/CSVに特化したスポーツ関連企画を手掛ける。2014年、レアルマドリード財団フットボールSCHリレーションシップディレクターに就任。2017年より、レアルマドリード、ACミラン、チェルシーFC、リバプールFC、アーセナルFCによる日本でのサッカースクール合同事業「キッズチャンピオンズリーグ」を主催。

text by 西川結城(Yuki Nishikawa)

大学在学中より横浜FCの専属ライターとして活動を開始。2007年よりサッカー専門新聞『EL GOLAZO』の記者として数多くのJリーグチームと日本代表を担当。海外クラブで活躍する本田圭佑や吉田麻也も若い時代から取材。現在はサッカー、スポーツ誌各媒体にも寄稿している。