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「コントローラー」 子どもも直面する、理想と現実 「コントローラー」 子どもも直面する、理想と現実

 家庭内では家族間のみの人間関係ですが、家から一歩外に出れば、大人のみならず子どもたちもさまざまなコミュニティに組み込まれていきます。サッカーチームでプレーする子どもにとっても、仲間とともに集団を形成する中で、たくさんの事柄に触れ、また揉まれていくものです。
 中には、自分がやりたいポジションや役割とは、異なるプレーを集団の中で求められることもでてくるでしょう。例えば、FWで点を取りたいけど、サイドバックで起用される。MFをやりたいけど、体が大きいという理由でDFで使われる。こうした個人の理想と現実は、集団競技にはつきものですが、特に精神的にまだ成熟していない子どもにとっては、受け入れることが難しい場合があります。
 ある意味、この幼少期に集団スポーツをプレーすることは、その子が生まれて初めて社会というコミュニティの中で生きる瞬間とも言えるのです。保護者としては、子どもが将来大人になって社会に出ることを想定しながら、純粋に競技をプレーしているのみならず、仲間と多くのことを分かち合いそして競い合いながら生きていくことを学んでいるという観点を持ちたいところです。
 我が子が「メッシのようなスター選手」になってほしい。そんな願いを保護者としては持つことは普通です。誰より自分の子どもに大きな期待をかけるのが、保護者でもあります。ただ、子どもの世界であってもすでに多くの仲間と生きていく上で、理想と現実が存在するものです。中には、子どもがチームでプレーできない状況を保護者が嘆いたり、本人以上に感情的になってしまう場合もあるでしょう。
 子どもを相対評価する、つまり他の子と比較するのではなく、出来る限りその子自身の長所を見つめる、いわゆる絶対評価をすることの大切さは、「メンター」の頁でも触れました。ここでもまずはその姿勢を保護者が忘れないことは重要です。

眼の前にある現実に隠れる、大切な”何か”を見つけ出す 眼の前にある現実に隠れる、大切な”何か”を見つけ出す

 本プロジェクトに関わる株式会社グラスルーツの今野敏晃氏は、これまで多くの保護者から相談を受けてきた中で、ある事例を紹介しています。
「子どもがチーム、集団の中でうまくいかない状況に、保護者の方がイライラしてしまうことは往々にしてあります。しかし、中にはこんな話も耳にしました。その方の子どもはチームでは控えGKでなかなか試合に出られずに、ご両親は他のチームに移ったほうが良いと考えていました。ただ、本人がそれを拒否したのです。本人は『試合には出られないかもしれないけど、僕にはやれることがまだある。このチームで勝ちたい』と話したそうです。彼はすでに自律(自立)心のあるタイプですが、意外と保護者の方の思いが先行しすぎてしまって、子どもの目の前にある現実、そこにある大切さが見落とされてしまうこともあるのです」
 では、実際に保護者が『コントローラー』としてどんな役割、振る舞いをすべきか。
 今野氏が続けます。
「これは、サッカーが上手い、もしくは周りの子よりもレベルの高い子どもを持った保護者の方に多いかもしれませんが、例えば同世代よりも一つ、二つ上の世代のチームに飛び級でステップアップしていく子どもがよくいます。もちろんサッカーの実力だけを考えたら、これはありなんですが、違う側面も出てきます。
 スペインのレアル・マドリーの育成で実際に行われていることですが、プレーレベルが高い子どもも、ただサッカーが上手いというだけではすぐに飛び級はさせません。然るべきタイミングで、上に引き上げるのです。プレーレベルがすでに高い子は、確かに同世代とプレーしても群を抜いている。すると徐々に、周りを引っ張ろうとリーダーシップを発揮する可能性もあります。これは上の世代ではなかなか表現できないことです。つまり、プレーだけでなくそうしたメンタル面でも成長が見られた時に、初めて昇格が現実となるのです」
 学校や塾の勉強であれば、成績の良い子どもはどんどん上のレベルへと駆け上がっていきます。向かい合うのは、教科書やノートのみです。ただ、スポーツは他の仲間とも深く関わり、また向き合っていくものです。上手い子どものみならず、試合に出られない子どももしっかりと現実を受け入れつつ、その中で長所を生かしながら何が出来るか。保護者は『コントローラー』として子どもに寄り添い、ともに考えていくことが大切です。

「イノベーター」 サッカーには、明確なセオリーがある 「イノベーター」 サッカーには、明確なセオリーがある

 そして最後のマネジメントロールである、「イノベーター」です。
 「自由な発想」と「失敗を恐れないチャレンジ精神を生み出す役割」――。言葉で言うのは簡単ですが、これは仕事や社会の現場でもなかなか体現することが難しいものです。
 会社で言えば、規定されたビジネスルールにある程度は則りつつも、自分の特長や良さを出すべく、柔軟な判断や多くの選択肢を持つことが理想的です。これを、サッカーをしている子どもに対して保護者が伝えることができるのか。大人が実践すること自体が難しいにもかかわらず、子どもにも理解させることは一見困難に思えることでしょう。
 サッカー先進国が集まる欧州では、幼少期にどんな育成がされているのか。それを見ていくと、この「イノベーター」の視点がわかりやすく理解できるかもしれません。
 前述の今野氏が、欧州での現状についてこう話します。
「例えば、モデルであれば背が高い、アイドルであれば笑顔の表情など、その職業に就く上でまず必要なセオリーというものがあります。そのセオリーがあって、次に個性での勝負となる。実は欧州では、サッカー選手にも明確な選手像やプレーのセオリーがまず存在するのです。
 大体どこの国でも、15~16歳ぐらいまでにはその定石が叩き込まれます。そして選手としての基礎、型をしっかりと形成したあと、そこから自身の長所を発揮させていきます。選手としての基本姿勢から、サッカーという競技の本質に基づいたプレーセオリー。わかりやすく言えば、例えば10回ボールに触れる場合、8割ぐらいはいわゆるチーム戦術や定石に沿ったプレーを選択していく。それが集団競技では大切になってきます。ただこれが10割定石通りでは意味がない。残りの2割で、相手の裏をかくような意外性のある動きをする。このバランス感覚を見つけ出すことが、その人間の判断力、引いては自立(自律)を促します」

セオリーどおりの中で、意外性を出す勇気 セオリーどおりの中で、意外性を出す勇気

 普段、多くの海外組の選手たちを取材する機会があります。そこで日本人選手たちの多くは、これまで幼少期から受け続けてきた日本の指導法からすると、考えられないような現実に直面することも多々あるようです。
 例えば、監督から説明された練習メニューを、その説明とおりにすべてプレーしていると、監督がプレーを止めてこう一言。
「なぜ、言われたとおりだけのことをやっているんだ」
 監督としては、練習の基本的な動きは示したが、場合によってはそれ以外でも効果的なプレーが存在することを強調したかったようです。型はあるが、意外性も必要。それを練習から選手たちに求めているのです。
 一方、今の日本の育成では、この順序が真逆なことが多いようです。子供のうちは規定も何もなく自由にプレーさせることを打ち出し、そして年齢を重ねてから選手としての型やセオリーを教え込んでいく。一見正しい流れではありますが、幼少期から必要以上に子ども扱いするのではなく、その子を一人の人間として捉えた場合、やはり早い段階から選手としてあるべき姿や定石といったものを理解させていきたいものです。
 では、実際に子どもたちは何を基準にすべきか。また保護者も「イノベーター」としてどんな役割を意識しながら子どもに接するべきか。今野氏が続けます。
「まずは、所属しているチームの監督やコーチの指導や指示を、8割9割は守りながらプレーすべきだと思います。ただ、それだけをやり続けるのではなく、どこかで相手を欺くようなプレーや、誰も想像もつかないような判断で虚をついてみせる。サッカーは、基本的には相手の読みを上回るプレーをすることが大切です。指導者の声もしっかりと行動に移しながらも、どこかでアレンジし、自分らしさを発揮する。その姿勢、行動はそのままチャレンジ精神にもつながっていきます」
 日本人は、言われたことに対しては言われたことだけ行動する、または自由と言われれば勝手気ままに行動することだと、考えてしまいがちかもしれません。しかし、セオリーと自由、その両方の最適なバランスがあってこそ、機能的かつ効率的に動くことができる。それを保護者が理解し、子どもに教えていく立場こそが、「イノベーター」と言えるでしょう。

profile

今野 敏晃(Toshiaki Nishikawa)

1975年7月13日、東京生まれ。
高校卒業後イタリアへ渡り、ファッション業界にて対日セールスマネジメント・マーケティングに従事。独立・起業後は、スポーツコンサルタントとして、マンチェスターユナイテッドの東日本大地震復興支援プロジェクトなど、CSR/CSVに特化したスポーツ関連企画を手掛ける。2014年、レアルマドリード財団フットボールSCHリレーションシップディレクターに就任。2017年より、レアルマドリード、ACミラン、チェルシーFC、リバプールFC、アーセナルFCによる日本でのサッカースクール合同事業「キッズチャンピオンズリーグ」を主催。

text by 西川結城(Yuki Nishikawa)

大学在学中より横浜FCの専属ライターとして活動を開始。2007年よりサッカー専門新聞『EL GOLAZO』の記者として数多くのJリーグチームと日本代表を担当。海外クラブで活躍する本田圭佑や吉田麻也も若い時代から取材。現在はサッカー、スポーツ誌各媒体にも寄稿している。

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