本プロジェクトの哲学をベースに、鈴木啓太氏もメニュー作成に携わり展開された今回のトレーニング。はじめに子供たちを前にして、鈴木氏が伝えたテーマがあった。
「今日は、『考える』をテーマにしてメニューを組んでいます」
ただ闇雲に、ボールを蹴ったり、技術を磨いたりするのではない、常に『考える』ことを意識したトレーニング。まず鈴木氏が、面白い実験を参加者に提示した。
「子供たちは保護者と向い合せになって見つめ合ってください。まず、何もない状態で目をぐるりと回してください。次に、今度は片方が指を出して円を描いて、もう片方がその指を追って目を回してください。では、何か違いがあることに気づきましたか?」
元気よく手を挙げた子供が答えた。
「指を追ったほうが、目を回しやすかったです!」
鈴木氏は笑顔で、この意図を明かした。
「そうなんです。何を言いたいかと言うと、この指の動きこそが、皆さんの目的、目標なのです。夢や目標といったものがないと、スムーズには行動できないのです。目的がはっきりしている方が、成長しやすい。そのためには『考える』ことが必要です。だから今日は、その目的、目標をしっかり持って、トレーニングをしていきましょう」
誰もが理解、納得できた実験。体感した参加者たちは、鈴木氏の説得力にがっちり心をつかまれたようだった。
まずはリフティングメニューから始まり、単純に回数を稼ぐのではなく、しっかり足とボールのインパクトを意識したやり方が指導された。Webにアップされた動画でもすでに説明されている方法で、子供たちからは「ちゃんとWebでチェックしてきました!」といった声も練習中には飛び交っていた。
次に、色分けされたビブスを着てのミニゲーム。ここでは、例えば片方のチームは「声や指示を出してはいけない」という制限を課しゲームを展開。子供たちはパスを呼び込むために手を叩くなどの工夫をして、何とかプレーしていた。
鈴木氏が子供たちに語る。
「普段、味方と声を出し合ってプレーすることがいかに大切なのか、ということを、みんなわかったと思う。また不自由な中でプレーするには、工夫して行動しないといけない。それを理解することも大切なことです」
すると、次に行われたゲーム形式のトレーニングで、子供たちに変化が見られた。プレー中にも臆することなく声を掛け合い、自分のプレーや判断を主張する場面も散見された。さらに他のグループが試合をしている最中は、ラインの外で即席の作戦会議が至る所で行われていた。「もっと声を出し合って、ボールを回そう」、「フォーメーションをしっかり作って、相手を崩そう」など、初対面の子供たちが建設的な意見を出し合っていた。
まさに、『考える』というテーマが実際に表現されていた瞬間だった。
トレーニングの最後に、鈴木氏が話した。
「サッカーは、ただボールの扱いが上手かったり、走ることだけが大切な競技ではありません。サッカーは『考えるスポーツ』です。みんな、普段の試合の中で実際に自分がボールに触れる時間は、実は数十秒しかありません。それ以外は、ボールのないところでいかに動くかが大切です。そのためには、『考える』ことが大事ということを理解してください」
小学生などの育成年代は、当然ボールに触れて、サッカー自体を楽しむことが大切。ただ、選手を目指す大志を抱き、その実現に向けて取り組むためには、この時代から『考える』という意識付けは不可欠。その必要性を、鈴木氏が独自の観点で子供たちに伝えたトレーニングだった。